『 蒸気の臨界点 』


ある物と物の境。

 例えば、地平線は地面と空のボーダー。

 上昇しようとするものと、下降しようとするものの接点が存在しているように視覚は捉える。

漫然と見ていれば、そこに変化があること に気付かないが、

実際には刻々とその物を構成する物質内部と外界との双方に、

せめぎ合う接点が動き続けている。

そして、物をその物として認識できる臨界点がある。

 このような物の在りようを人間の営為にも重ねて考えた。

 物質の集合である人体も同じような現象の中にあるが、

今という瞬間は、まさに臨界点と言えるのではないか。

 生命という熱によって液体が温度を上げ、

その形のまま留まろうとする場と蒸発し変化してゆく力が働く場がせめぎ合う。

 今ある現像は目の前に直面していながら、残像を引きずり、

過去の視覚体験を共有し、また過去へと移り過ぎていく。

今という臨界点は未来に渡ろうとする力の発生する場である。

 しかし、この接点を意識しなければ、ただの変化であり、

内包される臨界点と時間の重さを生むことはないだろう。



 2018年5月                    
                     篠原 猛史





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